【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第7章 君との距離
ライブは楽しい
唯一、自分が自分で良かったと思えるのが歌っている時。
そんな歌を直接誰かに届けることができるライブが大好きだ。
こんなわたしでも、誰かの心をほんの少しでも動かせることができるなら、これ以上幸せなことはないじゃない。
数曲歌い終わって、衣装チェンジのために袖に戻ると、安室さんとパチっと目が合った。
「君は、すごいですね。本当に」
「…今日、わたしがこんなふうに楽しく歌えてるのは、安室さんがいてくれるからだよ」
この人が、ずっとそばで守ってくれてるから、わたしは少しの不安も無く、ステージに立ててる。
どんな警備員より、ボディーガードより、安室さんがそばにいるだけで安心する。
そんな思いを込めてじっと安室さんの方を見ると、安室さんはわたしの頬に手を添えた。
キスされる?!
と一瞬ぎゅっと目を瞑ったわたしを見て、安室さんが笑いながら頬をぎゅむ…と摘む。
「ふぇ?!」
「っはは。マヌケな顔」
「ひっ、ひどい!」
「…こんなLilaの顔、きっとここの会場に来てる人はほとんど知らないんだろうな」
安室さんはそう言って少しだけ、ほんの少しだけ嬉しそうに笑った。
そうだよ。
安室さんだけだよ…?
わたしの不細工な顔も、すっぴんも、寝起きの顔も、ランニングしてる時の必死な顔も全部、安室さんにしか見せてないよ。
なのに、ストーカーが捕まったらまた他人に戻るの?
わたしは、もっと…
「Lilaさんー!そろそろですー!」
「あっ!はーい!」
安室さんの目を見つめていると突然スタッフに呼ばれ、わたしはまた慌てて奈落にスタンバイする。
集中しなきゃ。
残り半分、ちゃんと歌を届けなきゃ。
深呼吸して、わたしはまたステージに戻った。
Lilaとして。