【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第51章 優しい彗星
ステージ袖には、山岸さんや他のスタッフが花束を持って迎えてくれた。
「Lila。ひとまず、お疲れ様」
「ありがとう、山岸さん。
向こうに行ったら、山岸さんにマネジメントしてもらえないとちょっと不安だよ」
「大丈夫。Lilaなら十分やっていけるよ」
山岸さんと仕事をするのもこれが最後。
最後…実感は全然湧いていないんだけど、明日の夜の便でわたしはニューヨークに旅立つことになっている。
ライブの打ち上げにすら参加できず、わたしはそのまま衣装から私服に着替えるとタクシーを捕まえて自宅へと戻った。
零と一緒に暮らした、もう零が帰ってこない自宅へ。
明日の出発に向けて、トランクを3つ引っ張り出し、必ず持っていくと決めていたものを次々に詰め込んでいく。
そして、持っていかないものは別のダンボールに詰め、あとで山岸さんに処分してもらう段取りになっている。
2人で一緒に住もうと言った部屋から、自分のものを片付けているとき、無性に寂しくて泣きそうになった。
ここに引っ越して来たときは、幸せでいっぱいだったけれど、ここを出て行くときはこんなに切ない気持ちで溢れてる。
涙を堪えて荷物の整理を終えたわたしは、零とよく眠ったベッドに転がった。
広いベッドの片側を開けて眠るのは、もう癖になってる。
ここで寝るのも、今日が最後。
1ヶ月経っても、まだほんの少し零の香りがした。
明日からは、この匂いを感じることは一切無くなる。
そう思ったとき、我慢していた涙がポロ…と溢れた。
好きで、大好きで、特別な存在だった零との思い出を胸に、わたしは海を渡る。
だから今日だけは。
今日だけは零のぬくもりを少しでも長く感じたい。
そう思いながら、零の残り香をめいっぱい感じて
わたしはゆっくりと目を閉じた。
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