【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第51章 優しい彗星
「突然ですが、わたしは今日このライブを持って、日本での活動を休止し、アメリカに拠点を移すことに決めました。」
会場からも、今いるスクランブル交差点の周りからも、一気に周りの人間がざわついた。
「えっ!Lila、もう日本で見られなくなっちゃうの!?」
「ライブ、まだ一回も行けてないのに!」
そんな、惜しむような声が次々とLilaに対して向けられた。
「いつか、世界中の人に自分の歌を届けたい。
それがわたしの密かな夢でした。
その夢を、後押ししてくれたいちばん大切な人に、アンコールの曲を贈りたいと思います。
…彼は、いつもどんなときも優しかった。
わたしの前に彗星のごとく現れて、捕まえたと思ったらどこかに行っちゃった。
たぶん、この歌を歌うのはこれが最初で最後。
全身全霊、命をかけて歌います。」
そして、リラの歌声が一帯に響いた。
僕とのあの別れの日を歌ったかのようなAメロ
僕と出会って、自分の世界が変わり始めたというサビ
その曲のすべてが、僕に向けて歌われた曲に思えて、思わず目の前が歪んだ。
リラ。
君と過ごした日々は、全部鮮明に覚えてる。
本当は手放したくなんてなかった。
君は僕に救われたというけれど、君の存在に救われたのは僕の方だ。
あの日、初めてラジオから流れてくる君の歌声を聴いた夜をよく覚えてる。
それから偶然出会って、恋に落ちて時間を過ごしていく中で、かけがえのない大切な存在になった。
君の歌声を守るためなら、どんなことでもする。
いつだってそう思っていた。
けれどここで、リラを僕の隣に縛り付けてしまうと、きっといつか後悔する日が来たのだと思う。
僕の道とリラの道は、神様の気の迷いで一瞬だけ重なったけれど、きっと軌道修正されたんだろう。
もともと重なるはずのなかった歩む道が、どんどん離れていく。
そんな気がした。