【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第50章 Last Kiss
リハーサルを終えると、本番までの待機時間となった。
控えスペースでハチミツの飴を舐めながらボーッと他のアーティストのステージを眺めていると、トントンと肩を叩かれた。
振り返るとそこにいたのは、
「藤さん…」
「どうした?体調でも悪いのか?
顔色が悪い」
「…いえ?元気ですよ?」
にこりと笑ってみせた。
得意の作り笑いを。
わたしのその痛々しい笑顔を見た藤さんは、そうか…と、それ以上何も言わずにわたしの頭を撫でた。
「もうすぐ、あんたの出番だろ?
楽しみにしてる」
それだけ言い残し、藤さんは他のアーティストに挨拶へと向かった。
顔色が悪いとすぐにバレるなんて、ダメだ…
ちゃんと笑わなきゃ。
せっかくさっき、鏡の前で笑う練習したのに。
そう思いながら、自分の両口角を指でキュッと上げてみる。
笑わなきゃ…Lilaなんだから…
それから30分後、
「Lilaさんー!スタンバイ、お願いします」
「はい!」
スタッフから声がかかり、わたしはステージ袖へと移動した。
今日歌う曲は、零と出会う前にある恋愛映画とのタイアップで書いた曲だ。
わたしはマイクを握りしめ、スポットライトを無数に浴びながらステージに立った。
目の前には何台もの大きなカメラが向けられていて、わたしの姿は全国の何十万という人が見てる。
その中に、零もいるのかな…?
そう思うと、一気に切なさが襲ってきて、息が詰まった。
口元が震えるのを、わたしは必死に抑えようとする。
大丈夫。
この曲には、零との思い出は何一つないから泣かずに歌える。
なにひとつ…