【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第48章 都会の光の中で ☆
そんなことを考えて、そのプロポーズを受ける言葉を口にしようとした時、わたしの脳裏にフッと今日の藤さんの言葉が浮かんだ。
「…ま、よく考えろよ。本当にその選択が間違っていないのか。」
なに…が?
間違ってるはずない。
だって、大好きで仕方ない自分の恋人にプロポーズされたんだよ?
構わずイエスを伝えようとしたとき、今度はわたしの中の悪魔が囁く。
ここで零の手を取って、彼と添い遂げる道を選んだら、もう二度とステージには立てないことが確定する。
それでもいいの?
いい…よ。
いい。そう社長に返事をするつもりだったし。
それでいい。
いいと、思うのに…
今この場で選択を迫られると、どうしてかわたしの身体は石のように固まって動かなくなる。
はい。って言いたいのに
嬉しい、ずっと幸せにしてね?って言いたいのに。
零と、幸せになる道を選びたいのに
そう思っていると、零はわたしの頭をポンポンと撫でながら優しく笑った。
「ごめん。
突然こんなこと言われても、すぐに返事出来るわけないよな。
仕事のこともあるだろうし、…ほら、芸能人って誰かと結婚するのに事務所の許可とかも要るだろうし。」
そこまで言った零は、わたしの頬に伝う涙を指で拭いながら言った。
「返事は、今度でいいから。考えておいて?
今日のところは、リラが泣くほど喜んでくれた。それだけで十分」
「零…」
そう言うと、零はまたわたしを腕の中にぎゅっと抱きしめた。
零の香りが、鼻をくすぐる。
わたしの大好きな、大きな海みたいな優しい匂い。
「好きだよ、リラ」
「っ…わたしも零が…すき…」
好き。
その言葉は、あまりにも簡単に言えてしまうのに、プロポーズのイエスはなぜこうも即答できなかったんだろう。
どうして?
零が結婚しようと言ってくれて、何より嬉しいはずなのに
わたしはまだどこかで迷ってるの?
命と同じぐらい大事な歌を捨てることに、今まで輝いてきた自分の居場所を捨てることに、
まだ迷ってる…?
*
*