【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第48章 都会の光の中で ☆
そう言って羨ましそうに笑う藤さん。
わたしは、なんて返したら良いかわからず、愛想笑いをしながら言った。
「…その話なんですけど…」
わたしが余程気まずそうにそう切り出したからか、藤さんは何かを察して申し訳無さそうにした。
「あー…。他のやつに取られた?とか?」
「い、いえ。そうじゃなくて…」
「…まさか、辞退したのか?」
「…辞退しようと思ってます」
辞退したのか?
その一言を発する瞬間、藤さんの声のトーンが少し変わった気がした。
そりゃそうだ。
ミュージシャンなら誰もが夢見る全米デビュー。
その話が振って来たのにも関わらず辞退しようなんて、きっと世界中でわたしひとり。
「あんた、その意味わかってんのか?」
藤さんは物凄い剣幕でわたしの肩を掴んでわたしを睨んだ。
「…わかってます」
「わかってねぇよ。
辞退するってことは、もう二度とチャンスは巡ってこない。
それに、日本でだって今まで通り活動できるとは限らない。
歌う場所、無くなっても良いのか?」
「たとえ歌えなくなっても、離れたくない人がいるんです」
「へえ?どっかのアイドルみたいに結婚してステージにマイク置いて引退するのか?」
イラついたように、藤さんはわたしを睨んだ。
藤さんの言い分も痛いほどわかる。
理屈では理解してるよ、わたしだって。
嬉々として海を渡るのが正しいってことぐらいわかる。
だけど…
「そうなっても仕方ないかなって」
そう言うと、藤さんは呆れた顔してわたしを見た。
「あっそう。
…見損なったよ。
あんたが歌にかける思いってそんなもんだったんだな」
その藤さんの言葉に、心がズキンと痛んだ。
わたしが、15の時からずっと歌のことばかり考えて生きてきた人生を、否定された気がして。
けれど藤さんにそう言わせたのは他でもない、自分自身だ。