【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第48章 都会の光の中で ☆
社長からアメリカ行きの話を聞いて、2週間が経った。
わたしは今音楽番組の収録のために楽屋でメイクをしているところだ。
「ねえ山岸さん、社長に例の件の返事したいんだけどいつ会えるかわかる?
気持ちが変わらないうちに断りたい…」
「秘書に連絡して聞いてみるよ。
…Lila。本当に後悔しない?」
山岸さんは、きっとわたしにアメリカに行くべき。じゃなくて、わたしが後悔しない選択をすべき。そう思ってると思う。
「しないよ…零が何より大切だから」
この2週間、ずっと考えてた。
考えても考えても、これしか浮かばない。
零のいない世界で歌っても、意味がない
日本にいても歌は歌える。
もしも今の事務所をクビになっても、今は動画サイトで楽曲を公開することだってできる。
大勢の前で歌えなくなっても、零のそばでほんの一握りの人に届く歌ぐらいなら、きっと歌える。
それに、零と約束したもの。
絶対にいなくならないと。
「そう。Lilaが選んだ道なら、応援するよ」
わたしの決心が固いと感じたのか、山岸さんはそれ以上は何も言わなかった。
その時
コンコンッ
「Lilaさんーまもなく収録スタートです。」
「はーい!」
番組のADが楽屋まで呼びに訪れ、わたしは衣装とメイクばっちりな状態でスタジオへと向かった。
思えば今の事務所を辞めることになったら、こんなふうにテレビに出るのも無くなるんだろうな…
そう思うと、今まで当たり前に過ごしてきた撮影風景がなんだか急に新鮮に思えてきた。
スタジオのひな壇、隣は藤さんだった。
久しぶりに藤さんに会ったわたしは、他のアーティストがステージのリハーサルをしている間、隣にいる彼に話しかけた。
「藤さん。新曲ですか?」
「あぁ。あんたのせいで似合わねぇラブソング書いちまったよ」
「またまた〜いい曲なくせに!聴くの楽しみです!」
そう言って笑うと、藤さんもフッとクールに笑った後、わたしの目を見て言った。
「…アメリカ行くんだろ?おめでとう」
「…どうして」
「うちの事務所の社長、あんたの事務所の社長と仲良いからさ。
良かったな。
全米デビューなんて、すごいチャンスをものにできて」