【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第47章 夢を奪う権利 ☆
安室side
残りのポアロの仕事は、ほとんど身が入らなかった。
サンドイッチを作っていると、今朝僕の作ったサンドイッチが食べたいと笑ったリラの顔が浮かぶ。
コーヒーを淹れていると、初めてリラに出会った時に出したコーヒーを思い出す。
あの日、このカウンターで、砂糖もミルクも要らないと良い、ブラックで僕のコーヒーを飲み、美味しいと笑ってくれたリラの顔を、鮮明に覚えている。
思えば、リラは僕の生活の大部分を締めていて、常に彼女のことが頭の片隅にある。
今までいろんな場所に行った。
いろんなことを二人でした。
これからもずっと、ふたりで一緒に…そう信じて疑わなかった。
僕はリラに何をしてやれる?
リラの夢を尊重して、離れてやるのが正解なのか?
それとも、歌う場所を奪ってでもこの手で幸せにしてやることが正しいのか?
自分に自問自答し続けながら、気づけば自宅マンションのエントランスに立っていた。
昨日、リラも自宅前に立った時こんな気持だったんだろうな。
相談したいのに、相談したら全てが決まってしまいそうで言えない。
そんな気持ちが、今になってよく分かる。
僕は重い気持ちのまま自宅のドアを開けた。
「ただいま」
なるべく普通に、笑顔で、ポーカーフェイスを取り繕い部屋の中に入ると、先に帰宅していた様子のリラがキッチンに立っていた。
「おかえり!」
「あれ?今日はサンドイッチが食べたいのでは?」
そう言いながら、キッチンに立つリラに近づくと、リラはえへへと笑いながら僕を見た。
「零と一緒にサンドイッチ作りたくて!
下準備を色々してたの!
卵の準備したり、野菜を切ったり…」
僕の大好きな笑顔を見せるリラが愛しくて、大好きで、なのに苦しくて。
僕はリラの身体を思い切り抱きしめた。