【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第46章 掴みかけた夢 ☆
「あの、本当に全米デビューできるんですか?」
「ええ。
1曲はリリースする契約書を作ってもらったから。
あとは、これにサインして取り交わすだけよ。」
「1曲…」
「そう。2曲めがあるかどうかは、あなたの1曲めが全米でどれだけヒットするかによる。
それでも、やって見るだけの価値はあるでしょ?
なにより、うちの事務所でこの話にふさわしいのはあなたしかいないって私が判断したの」
思い描いていた夢が、だんだん形になって自分に近づいてくる気がした。
「挑戦してみたいです。」
「そう?
じゃあ、今の家は解約して、NYに新しいマンションを契約しなきゃね。
日本でのラストライブの計画も立てないと」
「え…」
その社長の一言に、わたしの思考回路は止まった。
そしてすぐに、ハッと動き出す。
「ま、待ってください。
日本にいながらのデビューじゃ…」
「バカね。向こうに移り住むに決まってるでしょ?
日本との活動を両立できるほど甘い世界じゃないわ。
日本での活動は無期限休止。
向こうでボイストレーニングやライブパフォーマンスのレッスン、他にもたくさん覚えることはあるんだから」
掴みかけていた夢が、一瞬で遠のいた気がした。
今のわたしには、日本を長期間離れるなんて考えられなかったから。
「それは…1年…とかですか?」
「1曲めが失敗したら1年で日本にとんぼ帰りね。
でも、ヒットしたら、そのまま向こうのレコード会社と提携して
3年、5年、いやもっと長い間でも。」
5年…それよりもっと長い間…
その現実は、わたしにとってあまりにも残酷だった。
つまりそれは、零と離れなければならないということだから。
歌と同じぐらい大切な零の存在。
ツアーで1ヶ月離れ離れになるだけでも、寂しくてお互いが恋しかったのに、1年、3年、5年、それ以上…
想像ができないし。したくもない。
「じゃあ、いくつかめぼしいマンションをこっちでピックアップ…」
「待ってください」
NYへの移住の話を進めようとする社長の言葉を遮り、わたしは神妙な面持ちで伝えた。
「ちょっと…考えさせてください」
「何を考えることがあるの?
これはもう二度と無いチャンスなのよ?」
「…」
そんなのわかってる。