【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第46章 掴みかけた夢 ☆
その単語に、わたしは思わず目を丸くする。
「そう。
この数ヶ月、私はアメリカのレコード会社に何度も足を運んで、あなたのデビューをようやく取り付けたわ。
これまで、日本中をあなたの歌で癒して来たけれど、これからは世界中にそれを届けることができるの」
「……」
社長の言葉に、放心状態のわたしを見て、社長は首を傾げながら尋ねた。
「…不満かしら?」
「い、いえ。
不満とかじゃなくて…信じられなくて…
だって、世界中に自分の歌を届けることは、デビュー当時からの夢で…ずっと夢は夢のままだとばかり…」
ずっと、夢見てたことが現実に起こると、人は放心状態に陥るんだ。
そんなことを呑気に思った。
この世界に足を踏み入れてから、毎年冬のグラミー賞を見るのが恒例だった。
世界最高峰の音楽賞と言われているこの祭典に、いつかわたしが出られたら…
なんて夢見て、英語も勉強したし発音だって何度もトレーニングを重ねてた。
だけど、20歳になったときにその夢はどこかで諦めてしまっていた気がする。
10代の頃は、諦めなければ夢は必ず叶うと信じてがむしゃらに突き進んできたけど、20代になると現実が見え始める。
日本人アーティストが全米デビューして成功した例は今のところ無いし、声量もパフォーマンス力も欧米人には劣る。
わたしは、きっとこのままこの国で歌い続けるんだろうと、どこかで諦めていた気がする。
日本で長く前線で活躍するのだって、すごいことじゃない?
日本中に、自分の音楽を届けられるってことだけで、素晴らしいじゃない?
そう自分に言い聞かせて、夢は夢のまま大切にしまっておこうと考えてた。
なのに…それがまさに今、手に届きかけている。