【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第45章 4枚の桜のはなびら
「リラは…いなくならないで」
いつも余裕な零が、そんなことを言うのは初めてだった。
風邪で意識が朦朧としているんだろうけど、それにしてもこんなに弱気な零は初めてだ。
いなくならないよ。
そう返事をする前に、零が捕捉するみたいにまた言葉を紡いだ。
きっとわたしが戸惑ったのがすぐにバレたんだ。
「…嫌な夢見たんだ…
夢というか…ほとんどノンフィクション」
そう言いながら額に手を当てて、はぁー…っとため息を吐く零。
零がこんなになるまで嫌な夢…
それもノンフィクション…
少しも想像できず、わたしは馬鹿正直に零に尋ねた。
「…どんな?」
「…そうだな。思えばリラには僕の過去の話はほとんどして来なかったな…」
そう前置きして、零は静かに話し始めた。
「僕が警察官を目指したのは、ある女性を探すためなんだ」
「ある…女性…」
「あぁ。小さい頃、この見た目のせいでよく同級生から揶揄われてた。
僕も僕で勝気な性格だったから、やられたらやり返すことがしょっちゅう。
よく怪我をすると近所にあった診療所の女医さんのところに手当てしてもらいに行ってたんだ」
わたしは何も言わずに、零の身体に寄り添って話の続きを聞いた。
零の、これまで経験して来た大切な人との別れの話は、想像をゆうに超えるものだった。
「その女医さんに、外側は違ってもみんな同じ色の血が流れているって励ましてもらってから、ワザと怪我してその女医さんに手当してもらいに行ったりしてた。」
「ふ…可愛いね」
「子供だったからね。
実の母親のように慕ってたんだ。
そんな彼女が、僕の目の前から消えたんだ。
なぜ彼女がいなくなったのか、その理由を知るのはずっと後の話だけど、その女性を探すために警察官になりたいと思うようになった。」
「…零の原点ってことだね」
「そうだな」
零は話をしながらわたしを抱きしめておでこにキスをしてくれた。