【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第45章 4枚の桜のはなびら
赤井秀一のことで頭がいっぱいの彼女を振り向かせたくて、珍しくなりふり構わず本能に従って動いたりした。
今思えば、随分ズルいことをしたなと思う。
彼女が、赤井に突き放されたところにすかさず手を差し伸べたのだから。
弱ったところに漬け込んだくせに、彼女が僕に好きだと言ってくれたときは、心の底から嬉しいと思った。
僕の手をとって着いて来てくれたこの子を、ずっと大事にしよう。
この子の隣が僕の居場所になって、この子の居場所は僕の隣になればいい。
そう思っていた。
けれど、人の心の向き先を無理やり捻じ曲げたところで、徐々に徐々にもとの向きに戻っていく。
彼女が好きだと思えば思うほど、彼女の気持ちは赤井秀一に向いていく一方で
結局、彼女の居場所は僕の隣ではなかったんだ。
別れた日、彼女は何も言わずに泣いて、僕はその涙を拭ってやれないと言い残したまま、彼女を手放した。
また、暗闇の中だ。
この一件で、流石に気付いた。
僕が大切に思ったひとは、僕の前からひとり残らず消えていく。
いつになったら、僕の居場所はできるんだろう。
どれだけ力を蓄えれば、大切な人を守ることができるんだろう。
いつまで一人で暗闇を走り続ければいい?
そう思っていたとき、僕の心を浄化したのは
ラジオから流れてくる歌声だった。
まるで、濁った毒の中にひとしずく聖水が落ちたみたいに、荒んだ心が透き通っていく感覚がした。
水の中に絵の具が滲んでいくように、じんわりと僕の心がその歌声で癒されていった。
そして、暗闇だった眼の前が照らされて、一筋の道が見えた。
その光の先で、誰かが僕の名前を呼んでいるのが聞こえた。
「零…」
あぁ、この声…落ち着く
僕の大好きな声だ…
「零!」
ハッと目を覚ますと、リラが心配そうに覗き込んでいる顔が視界に映った。
「零!大丈夫?
保冷剤、溶けちゃったよね…?
冷却シート買ってきたから変えよう?」
そう言って、まるで当たり前のように僕の目を見て微笑んだリラ。