【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第37章 ずるい
安室side
結局、レコーディングは夜までかかり、山岸さんとの飲みの約束は次回持ち越しとなった。
あれから、リラはレコーディング再スタートの一発目で見事にソロ曲を歌い上げ、リテイク無しで終了した。
どうやら、藤亜蘭にアドバイスされたブレスの入れる場所が的確だったらしい。
その後、2人のデュエット曲のレコーディングが始まり、こちらは難易度がそんなに高くない曲だからか、スムーズにレコーディングは終了した。
「零。ごめんね?
山岸さんと飲みに行くって言ってたのに…」
「いや?…お疲れ様」
そう言ってリラの髪を撫でるけれど、僕の頭の中はずっとモヤモヤしている。
「じゃあ、お疲れ様でした。」
「あ…藤さん!」
その横を通って、藤亜蘭がスタジオを出ようとしているのを、リラが咄嗟に止めた。
「あの、ありがとうございました。
藤さんがくれたブレスの位置のアドバイス、あのおかげで満足のいくものが録れました」
「別に?俺が作った曲なんだから、当たり前だろ」
「藤さんのソロ曲も…
わたしが作った曲をあんなに素敵に歌ってもらえて、本当に嬉しいです。
藤さんを見返してやるって思ってたけど、勉強になることばかりで…
まだまだですね。わたし。」
そう言って笑うリラの頭を、藤亜蘭がくしゃっと撫でる。
「そんなことねぇよ。
俺も、あんたから吸収すること結構あったよ」
「ほ、本当?」
「あぁ。エッジボイスの入れ方、ファルセットの切り替え方。
まあ他に色々」
「この曲で、紅白出られると良いですね!」
「どうかな。
まあ、初めてのコラボにしては、上出来だろ。
…じゃあ、またな。リラ」
リラ
Lilaではなく、リラの本名を呼び捨てにした藤亜蘭は、僕をチラッと見てすぐに目を逸らし、スタジオを出て行った。