【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第37章 ずるい
そう思いながらブースに立つ藤さんを見つめていると、ヘッドフォンをつけた藤さんがマイクに向かって声を出す。
「ベテルギウス。お願いします」
そして、藤さんが歌い出した時、ブース内の雰囲気が一変した。
深みのある、良い声。
Aメロからしゃくりやフォールを細かく入れ、歌声が3Dのように奥行きを感じさせる。
なにより、歌っている藤さんが優しい顔をしてる。
ラブソングが嫌いなんて、嘘じゃない…
だって、こんなに綺麗に歌うんだもん。
わたしがあの日見上げた星空が、目を閉じればすぐに浮かぶほど、情景が藤さんの声で蘇ってくる。
すごい…
この一言の次に頭に浮かんだ言葉。
それが、わたしから涙と共にこぼれた。
「ずるい…」
初めてだった。
歌を聴いて涙したのは。
聞いただけで耳が幸せになるような不思議な歌声。
そして、久しぶりのラブソングをこんなに素敵に歌い上げる藤さんの才能に嫉妬すら覚えた。