【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第37章 ずるい
目の前に出されたカロリーメイトに、わたしは不本意ながら手を伸ばした。
藤さんが怒るのも無理はない。
それに、全てド正論だ。
わたしのこだわりなんて、全てちゃんと楽譜通りに歌える前提の話なのに、自分が音を外して何度もリテイク、補正はしたくないなんてワガママすぎるよね。
藤さんが教えてくれた、ブレスのタイミング。
わたしは思いつきもしなかった。
悔しいな…
藤さんのこと見返してやるなんて大見栄切ったくせに、気付けば藤さんに助けられてばかりだ。
「リラ。」
「零…」
零が優しくわたしの隣に腰掛けて、わたしの髪を撫でた。
何もしてやれないのが、もどかしい。
髪を撫でる手がそう言ってる。
そんな中、藤さんがディレクターに交代する旨を伝えてブースに入った。
藤さんが歌っているのを、まじまじと見るのは実は初めてだ。
音楽番組での共演は何度かあったけど、タイムテーブルが違ってたりして、実は生歌は一度も聞いたことはない。
せめて、ちゃんと見て聴いて勉強しよう。
藤さんが、わたしが作った歌をどんなふうに歌うのか。
今回わたしが藤さんに提供した曲は、難易度で言うとかなり難しい歌。
テンポはそこまで早くないバラードだけど、音域は2オクターブ。
サビは地声とファルセットの切り替えが頻繁に必要となる。
藤さんが作ったわたしのソロ曲ほどではないけど、それでもわたし自身この曲を作りながらちょっと難しいかな?と思ったほどだ。
それに、藤さんが苦手だと言うラブソング。
この曲は、零と一緒に星空を見上げた時に書いた思い出の曲。
そしてその時に教えてくれた星の名前、「ベテルギウス」を曲名にした。
どんなふうに表現するんだろう。