【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第36章 ドS男の過去 ☆
藤さんの自宅は港区にある高級マンション。
わたしが住んでいるマンションよりも背の高いその建物をほぉーっと見上げていると、藤さんがトランクに積んでいた荷物を取り出した。
「ついでにこれ、部屋に上げてくるわ」
そう言いながら、両手いっぱいに紙袋を抱えた藤さん。
「あ。わたしも手伝います」
「いいよ。1人で持てる」
「でも重そうだし」
「…じゃあ、こっち持って」
そう言って藤さんは軽い方をわたしに差し出した。
藤さんの自宅はこのマンションの最上階。
高層階専用のエレベーターに乗り込むと、シンとした空気に高級そうな匂いが混じる。
「藤さん。
藤さんって、いつもどうやって曲作ってるんですか?」
「なんだよ。突然」
「いや、何であんなに短期間で、あんなにすごい音楽を作れるんだろうと思って…
わたしに提供してくれた楽曲も、素晴らしかったです。
わたしには絶対作れない」
「…適当だよ。音楽なんて」
「嘘ばっかり…」
適当であんな音楽作れるわけないじゃない。
同じ作曲者としてよく分かる。
曲作りの極意は企業秘密ってことだろうか。
そう考えていると、逆に藤さんがわたしに同じ質問を投げかけた。
「…あんたは?どうやって曲を作る?」
「わたしは…生活の中で心が動いた時…
ツンとしたり、きゅんとしたり、しゅんとしたり…そんな時に作ります」
「ふうん。」
聞いてきたくせに、藤さんはまるで興味なさそうに目を逸らした。