【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第5章 背中に触れた時
フゥ。と息を吐いて警察官の顔を作ると、風見も仕事モードに入る。
「例の外交官の一家が死亡した事件、調査の結果、無理心中だということが分かりました」
事件の資料を僕に手渡しながら風見が言う。
「無理心中か…じゃあ、例の組織は無関係ということか…」
「えぇ。どうやら、その外交官の妻が、夫との関係が上手くいっていないことを理由に、毒物を使って無理心中をはかったものと思われます」
その外交官は黒の組織と繋がりがあることを公安は掴んでいた。
だから今回の事件もてっきり例の組織が暗躍しているものと思っていたが、思い過ごしだったようだ。
「…小さい娘さんまで道連れにするなんて、ひどいものです」
風見が資料を見ながらそんなことを言う。
「…そういえば、毒物の無理心中、警察学校のときに授業でやったな…」
「そうなんですか?
自分達の代では無かったと思いますが…」
「…あれは確か、僕が小学生の時に起きた事件で、政治家一家が毒物で無理心中をはかったんだよ。
あの事件も、最初は殺人事件として捜査されたが、その後の調べで無理心中だと下された。
…確か、娘が1人、生き残ったって言っていたな」
もう何年も前の警察学校時代を思い返す。
あの頃の仲間達はもうこの世にいない。
あんなに、誰かのために動ける奴らが、全員この世から消え、僕がだけが生き残っている。
不条理だな…
「その助かった女の子、今頃何しているんでしょうね」
「さぁ。実の親に殺されかけたからな…
人間不信になって、ひっそりと暮らしているんじゃないか?」
そう言いながら、アイスコーヒーのストローに口をつけた時、胸ポケットに入れていた安室達のスマホが鳴った。
…知らない番号だな。
画面に表示された番号は、スマホに登録のない番号。
仕事の依頼か?
そう思いながら通話ボタンを押した。