【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第32章 Precious
けれど思った。
わたしは零に守られてばかりで、零の重荷になっているんじゃないかと。
すると、涼宮さんが零の腕をハンカチで縛りながら言う。
「とりあえず、応急処置して医者に診てもらいましょう。
医務室に連絡しておいたから、ほら。」
「あぁ。すみません」
そんなやり取りをして、零は涼宮さんと部屋を出ようとした。
「ま、待って!わたしも一緒に…」
「リラは本番のステージがあるだろ?」
「でも!こんなの心配で歌えないよ!」
そう言って自分のやるべきことを蔑ろにしようとするわたしを、零は静かに叱る。
「…リラ。君はプロだろ?
プロならいついかなる時も自分の仕事に誇りと使命感を持って挑むべきだ。」
ズキッと胸の奥が痛んだ。
零の言う通り、今のわたしはプロ失格だ。
泣きそうな顔して俯くわたしに、零は優しく髪を撫でて言った。
「応急処置してもらったら、ちゃんと客席からリラのステージを観るから。
僕に、パワーアップした歌声を聴かせて?」
それでも零について医務室へ行くか、ステージに上がって歌うか、2択の間で大きく揺れたわたしは、思いを固めて零の進行方向とは逆方向へ走り出した。
一目散にステージ袖まで走ると、わたしに気付いた山岸さんが安堵の表情を浮かべる。
「Lila!」
「ごめん…遅くなった…」
「今、前のアーティストが時間を繋いでくれているよ。
すぐ歌えるか?」
「大丈夫。歌う!」
走ってきたせいで上がって息を整え、わたしは舞台袖で発声トレーニングをする。
そして、袖のカーテンが開いて、わたしはスポットライトが眩しいステージの上へ駆け上がって行った。
「こんにちはー!Lilaです!
盛り上がってく行くよー!!!」