【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第32章 Precious
今、わたしの目の前には黒い銃口が向けられている。
その銃が本物か偽物かすらわからないまま、わたしはその人を見た。
これは、いわゆる絶体絶命というやつなのでは?
なんて、まだそんなことを考える余裕はあるみたい。
何せ、銃で撃たれるなんて痛みの想像も出来ない分、向けられた銃がオモチャにすら見える。
包丁を向けられるとまた違ったんだろうか…?
すると、一歩、また一歩と銃を持った男が近づいて来た。
距離が近づくにつれて、男の顔が良く見えるようになり、段々と恐怖心が高まってくる。
その男の目が殺すと言っているように見えて、わたしは思わず後退りをしながら身体が震えてきた。
「た…すけ…」
「残念だな。
仕掛けるところを見なけりゃ、爆弾で恐怖すら感じる暇もないまま死ねたのになぁ」
そう不気味に笑いながら、拳銃のロックを外す音がした。
ジャカ…
「れ…」
零、たすけて…
その言葉は声にならず、わたしの喉の奥で消えた。
逃げないと。そう思うのに体が動かない。
それにもし動いたとしても、すぐに撃ち殺されるだろう。
ガクガクと身体が震えるわたしを嘲笑うかのように、男の指が拳銃のトリガーにかかった。
そして、いよいよ引き金を引かれる…
その瞬間
「リラ!」
パァンッ
銃声と共に、わたしの名前を呼ぶ声がした。
ぎゅっと目を瞑ってしばらくすると、自分に痛みがないことに気づく。
そして恐る恐る目を開けると、零がわたしを抱きしめて庇っていた。