【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第32章 Precious
安室side
イベント開始からしばらく経ったけれど、特に大きな問題は起きていないようだ。
必ず何か仕掛けてくるはずだ。
そこをピンポイントで捕まえるのが今日のミッション。
ふとタイムテーブルを見ると、リラのステージが始まる時間が近づいてきていた。
ライブ前のリラの顔でも一目見ようと、僕はステージ横の控えスペースを見回りにやってきたが、どうしてかリラの姿は見えない。
「Lilaさん。次出番ですー」
スタッフがそう呼びかけた時、山岸さんは焦ったように言った。
「おかしいな…グローブ取りに行ったっきり戻ってこなくて。
もう10分も経つぞ…」
つまり、10分間誰もリラの姿を見ていないと言うことか…!?
その一言を聞いて、僕は思わず自分が安室透と別人だと言ったことも忘れ、山岸さんの肩を掴んだ。
「どういうことですか?リラは!」
「が、楽屋に衣装のグローブを忘れてきたから取ってくると、10分前ぐらいに出て行ったんだけど、まだ戻ってこなくて」
まさか…
僕の頭に浮かんだのは最悪の結末だった。
「リラ…!」
「ちょ…降谷くん!」
バッと山岸さんの肩に置いていた手を外し、一目散にその場を走り出した僕を、遠くの方で涼宮が呼んでいるのが微かに聞こえた。