【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第29章 零と過ごす2度目の夏 ☆
ピリリリリ
「零だ!!」
ビーフシチューをかき混ぜる手をピタッと止めて、飛びつくようにスマホを手に取ると、零からの着信の通話ボタンをタップする。
「もしもしー?零?」
きっと、今から帰るよ。という連絡だろう。
そう思っていたけれど
「リラ?
ごめん。今日少し遅くなる。先に夕食食べていて?」
「え…でも今日は…」
今日は2人が付き合った記念日なのに…
そう言おうとした時、受話器の向こうから零を呼ぶ声が聞こえた。
「降谷さん。会議が始まります」
「あぁ。今行く。
ごめんな。なるべく早く帰るから。
もし眠くなったら先に寝てください。じゃ」
「うん…」
零はいつもより少しだけ早口でそう言うと、急ぎながら電話を切った。
今日の朝、今日は早く帰れるって言ってたのに…
仕事だから仕方ない。
そんなの分かってる。
わたしだって仕事人間だから、零のこと言う資格ないし。
だけど、零はわたしと付き合った日のこともう忘れちゃった?
あの日、テレビ局の出口。
零がRX-7でわたしのところに来てくれたの。
車から出て来て、わたしの目を見て好きだよって、僕の彼女になってくださいって言ってくれた。
あれから今日がちょうど一年。
そんな記念日を、まるで高校生の恋愛みたいに大事にしているのはわたしだけなのかな?
そう思うと、張り切って作った料理が途端に寂しく見えてくる。
「わたしの方が、零のこと大好きみたい」
ポツリとそう零すと、わたしはビーフシチューを煮込むのをやめ、蓋を閉じて冷蔵庫に入れた。
1人で食べても美味しくない。
零が帰ってくるまで待ってよう。
そう思いながら、零がいつも家で仕事をする時に抱いているクッションを抱いてソファーに転がった。
クッションから、ほんのり零の香りがした。
早く帰って来て…
そう思いながら、わたしはゆっくりと目を閉じて零の帰りをひたすらに待った。