【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第28章 苦しみのその先に
わたしの癖は、いつでもどこでもパッと良いフレーズが浮かんだら、すぐにそれを書き留めてしまうこと。
一度、ショッピング中にトイレをしているときにフレーズが降りてきて、即座にトイレットペーパーを千切り、持っていたペンでトイレットペーパーに歌詞を書いたこともある。
今も、零がベッドで待っていることなんてすっかり忘れて、夢中になって歌詞をノートに書き殴っていた。
そうしているうちに、久しぶりの打ち合わせ続きで疲れが出ていたのか、わたしは気絶するように眠っていたらしい。
「リラ…」
「ん…」
零の名前を呼ばれ、ハッと身体を起こしたわたしを見て、零が耳元で優しく囁いた。
「僕を放置して、うたた寝?」
「ごっ!ごめ?!そんなつもりじゃ…」
「ベッド、行こうか」
優しさの中にほんの少しだけ妖美な視線で見つめながら、零はわたしの身体を抱き上げた。
「れ、零!自分で歩けるよ!」
「だめ。捕獲しましたから」
そう言いながら零に抱っこされ、わたしの身体は大人しくベッドに運ばれた。
トサ…と、優しくベッドに下ろされると、零はわたしの頬を掌で包みながらじっと瞳を見つめてくる。
「零?」
「どうして僕は、こんなに君のことを好きなんだろうな」
参ったように笑いながらそう言う零が愛しくて、わたしもつられて笑みがこぼれた。
「わたしも。
どうして零じゃなきゃだめなんだろうね」
「ふ…相変わらず、おそろいだな」
顔を見合わせて笑い合った後、零の顔が近づいてくる。
わたしはゆっくりと目を閉じて、そのまま零がくれるキスを受け入れた。
ひとつ、またひとつ
ちゅっ…というリップ音とともに、零の温かい唇の感覚がする。
わたしは瞳を閉じて、その感覚をずっと数えていた。