【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第28章 苦しみのその先に
10分、30分、1時間が経ってもリラがリビングから寝室へやってくる気配はない。
待ての状態で放置とはさすがだな。
1時間半もベッドで待たされた僕は、バーボンの時のように目を光らせ、ベッドを出るとリビングの扉を開いた。
「リラ?」
そこに広がっていたのはまさかの光景。
リラは机に突っ伏してうたた寝していた。
どうやら、新しい曲につける詩を書いていたらしい。
「おいおい…」
リラは普段から、メロディが浮かべば直ぐにスマホに録音。
良い歌詞のフレーズが浮かべばすぐにメモをとるようなソングライター。
きっと仕事をしていたら歌詞が浮かんだのだろうか、リラが眠る隣には書きかけの歌詞が書かれたノートがあった。
ぐしゃぐしゃにならないように、避けておこうとそのノートを手に取った時、書かれていた詩が目に入る。
そして、僕は泣きそうになった。
リラが抱く、「音楽」に対するありったけの愛を歌った詩だったから。
いつもあなたがいれば、世界は鮮やかになる。
いつでも音楽に支えられてきた。
救われてきた。
これからもずっと、わたしの周りで音楽が響いていますように。
いつも、本当にありがとう。
音楽に向けて作ったラブレターのようだ。
きっと、この歌えなかった期間に音楽が楽しめることへのありがたみを痛いほど感じたんだろう。
リラがどれだけ音楽が好きか、全身で伝わってくるような詩。
この詩にどんなメロディがつくのか、楽しみで仕方がない。
やっぱりリラは歌うべきひとだ。
歌わないといけない。
この歌を、この詩を、もっと沢山の人に知ってもらいたい。
そう思いながら、僕は眠るリラの髪を撫でた。
まるで、宝物を愛でるように。