• テキストサイズ

【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】

第4章 君の近くに




リラが歌い出した瞬間、ブースの中の雰囲気が一変する。

やっぱりすごい。
聴く者全て、歌の世界に引き込んでいくような歌声だ。

手と身体全体で16ビートを刻みながら、この高音低音の差が激しい難しい曲を難なく歌い上げている。


じーっとリラが歌う様を見ていると、隣に座っている山岸さんが言う。


「いい声でしょう」

「ええ…ものすごく」


この歌声をずっと聴いていたいとすら思うぐらい。
心地いい歌声。
4分35秒の曲が終わるのは一瞬だった。


「はい。オッケー」


ディレクターが一発録りでOKを出すが、リラがブースから難色を示す。


「あの、2番のBメロのピッチが多分少しずれちゃったので、もう一度最初から歌ってもいいですか?」

「OK。じゃあもう一度最初から」


そのやりとりを聞いて、僕は疑問に思ったことを山岸さんに聞いた。


「あの…普通、レコーディングってミスした部分のみ歌い直して、切り貼りしていくものなんじゃないんですか?」


昔、偽りのバンドをやっていたときにレコーディングについて調べたことがある。

確か、何テイクか録って、うまく歌えた部分を切って繋いで1曲が完成するのが主流だったはずだ。


「普通はそうなんだけどLilaは通しで一発録りにこだわるんだ。
ライブに来れない人にも、出来るだけ生の歌声を届けたいらしい。」

「でも、それじゃあ1曲仕上がるのに物凄い時間がかかるんじゃ…」

「うん。多分今日はB面の曲のレコもあるから、夜までコースだと思います」


嘘だろ…
今はまだ昼過ぎだぞ…


「あ、安室さん。
ここにあるお弁当どれでも好きなものを食べてください。」


山岸さんにそう言われ、僕は思った。
まさか、リラは夜までご飯も食べずに歌い続ける気か?

まさかな…途中で休憩を挟むだろう…

そう思っていたけど、リラが休憩を取ったのは手洗いと、ほんの少し水を飲むだけ。

何度も何度も歌い直し、スタッフとディスカッションを重ねた結果、たった2曲のレコーディングは夜22時までかかった。



/ 945ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp