【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第27章 母と娘
安室side
「今まで、ひとりにしてごめんね…」
そう零したリラは、涙を流したまま墓石に手を合わせた。
15年、積もり積もった雪が、ようやく溶けた。
そんな瞬間だった。
そのまま数分間、ずっと手を合わせていたあと、リラの母が静かに口を開いた。
「帰りましょうか。
また、来年の命日に来ましょう」
リラの義母のその一言で、僕たちは墓場を後にした。
ベルツリーホテルからタクシーで来たと言う母を後部座席に、リラを助手席に乗せて僕はRXのアクセルを踏む。
「お母さん、いつイギリスに帰るの?」
「明日よ。」
「明日?!急だね…
もっとゆっくりしていけばいいのに」
「クライアントを待たせてるから、仕方ないのよ」
そう言いながら、リラの母はスマホと手帳を膝の上に置いてメモ書きを始めた。
「仕事ばっかりして、身体壊さないようにしてよ?」
「リラこそ。」
「今はわたし、ニートだから。
このままずっと復帰できないかもね」
「今は降谷さんとゆっくりしなさい。
きっとまた歌えるようになるから。」
そんな話をしていると、車はいつの間にかベルツリーホテルに到着した。
「明日、何時の便?見送りに行く」
「昼過ぎの便よ。ビジネスクラスで悠々自適に帰るわ♡」
「セレブだねぇ。わたしのお母様は。」
そう言い合い顔を見合わせると、2人は同時に笑った。
似ていないと思っていたけれど、笑った顔はまるで本当の親子のように似ている。
この母の笑顔を見てリラが育ったと言う証だ。
「じゃあね。
降谷さん、送っていただいてどうもありがとう」
リラの母はそう言って会釈をすると、足早にホテルの中へと走り去って行った。
「さて。じゃあ僕たちも…」
「あ、零。ちょっと、寄り道して帰らない?」
「?いいけど、どこへ?」
「道は、わたしが教えるから。」
そう言われ、リラが助手席で教える道順通りに、僕はまた車を走らせた。
そして着いた先は