【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第27章 母と娘
母の日記帳…
それを手渡され、わたしは正直中を開くか迷った。
見たところで何になるの?
そう思う気持ちと、あのとき母が一体何を考えていたのか知りたい気持ち、両方合った。
わたしが日記帳を持ったまま、その一歩を踏み出せずにいると、隣りにいた零がわたしの肩を抱いた。
「僕が、ずっと隣にいるよ」
その言葉で背中を押されたわたしは、ゆっくりと母の日記帳を開いた。
そこには、生前の母の苦悩が記されていた。
政治家に嫁いだ生き辛さ
完璧な妻にならなければいけないという重圧
子どもたちを立派に育て上げないといけない使命感
愛した夫は他に不倫相手が何人もいる現実
子どもたちは自分を愛してくれていない。
それどころか厳しくする分きっと嫌われている
そして、問題の心中の前日の日記には、わたしと言い争ったときに思わず手を出してしまったことを悔やむ内容が書かれてあった。
「…覚えてる。わたし、あの事件の前の日、初めて母に叩かれたの」
些細な口喧嘩で、母が嫌いだったわたしは反抗。
そのときに、母がわたしの頬を思いっきり叩いたのを覚えてる。
日記にはこう書かれてあった。
ーー
今日、あの子が生まれてから初めてリラを叩いてしまった。
女の子なのに、顔を思いっきり。
なんてひどいことをしたんだろう。
リラを見てると、あの綺麗な瞳で私の弱い心が全部見透かされているようで怖い。
母親らしくしなければと思えば思うほど、子どもたちから嫌われ、孤独になっていくのが怖い。
リラが私を見る目は、もう母を見る目じゃない。
はやく、やり直さなければと思うのに、弱い私はきっとまたこうして手を出してしまう。
その前に、なんとかしなければ
幸せになりたかっただけなのに、いつから間違ったんだろう
ーー
「ばかなひと…苦しいなら、逃げればよかったのに。
わたしも、父も弟も置いて、逃げればよかったのに。」
わたしの口から出た言葉は、相変わらずだった。