【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第27章 母と娘
ベッドに突っ伏して、ぼーっと何も考えずにただ時間だけが過ぎていく。
不思議。
この間までは分刻みのスケジュールをこなす日はザラだったのに、今はこうしてただ息をするだけの時間がたくさんある。
目を閉じて、昔のことを思い出した。
歌を歌い始めた時よりももっと昔を。
義母は、いつもわたしに優しかった。
雨宮の家の子になってからずっと、わたしのこと怒ったことなかった。
義母が、わたしにとっての母親。
わたしを殺そうとした実の母親なんて、もう母親とも思ってない。
わたしの中で、モヤモヤと怒りが同時に押し寄せてきて、ベッドの上で眉間に皺を寄せていると、玄関が開く音がした。
零が帰ってきた…
そう思ったら、零は真っ先にわたしが拗ねて寝ている寝室に来てくれた。
「リラ、ただいま」
「…おかえり」
扉に背を向けて寝転がったままそれだけ言うと、零はわたしのすぐ後ろに来て、同じようにベッドに横になると、わたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
「お母さんと、少し話したよ。
良いお母さんだな。
リラのこと、大切に思ってること、伝わってきた」
「…お母さんは、良い人だよ。ほんとに」
本当に、良い人。
自分の子じゃないのに、お兄ちゃんと同じくらいちゃんと愛を注いでくれた。
わたしのこと、邪魔だと言う素振りを見せたことも一度もない。
こんなに良い人なのに、わたしは母に甘えてあげることができなかった。
雨宮リラになってからずっと、母にも兄にもどこか遠慮してた。
あの2人はわたしを本当の家族のように接してくれたのに、壁を作ったのはわたしだ。
わかってるのに。
そして零は、そんなわたしにある提案をする。
「リラ…僕も一緒に行くから、お墓参りに行こう?」
優しい陽だまりみたいなその笑顔でくれる言葉にわたしの目から涙がこぼれた。
「…零まで、そんなこと言うの?」
「リラが本当に行きたくないなら、僕は無理にとは言わないよ。
…だけど、本当は許したい気持ちもあるんじゃない?」