【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第27章 母と娘
そんな僕の考えを、リラの母は優しく肯定してくれる。
「いいのよ。あなたがそんな顔する必要ないわ。
それに、結局私が自分の姉を恨んでほしくないっていうエゴなのかもしれないし。」
そう言って、リラの義母は切なそうに笑った。
リラにとっては憎むべき相手でも、この人にとっては最愛の姉だったのだから、複雑だろうな…
なんとも言えない気持ちになりながら、しばらく運転しているといつの間にかベルツリーホテルに到着した。
ホテルのエントランスで車を停めると、リラの母は車を降りる前に僕を見て微笑んだ。
「じゃあ、降谷さん。
リラのこと、よろしく頼みますね。
私は明日お墓参りしたあと、明後日の昼の便でイギリスに帰るから、リラにそう伝えて?」
「はい…
…何も出来ず、すみません。」
「ううん。リラのことを大事に思ってくれていると、伝わったから。
じゃあ、また。」
また…
次にこの人に会えるのは、一体いつなんだろう。
リラの母とは言え、イギリスに住んでいるわけで。
リラはリラでイギリスに行こうとしないし、今休業中でそれどころではないだろう。
かと言って、歌声が元に戻って復帰したらそれはそれで忙しくなるはずだし。
このわだかまりを解消できるのは、今回を逃せばもう一生できないかもしれない。
僕は思わずリラの母を呼び止めた。
「あの!」
「?」
「…明日のお墓参りって何時にどこですか?」
人は、思った以上に突然いなくなる。
じゃあまたねと手を振ってそれきり会えなくなる現実を、僕は何度も見てきた。
それはあまりにも突然で、その人と最後に交わした言葉すら思い出せないほどだ。
そして、伝えたかったことを何一つ伝えられていないことに失ってから気づく。
そんな悲しい経験を、リラにはしてほしくない。
そう思った。