【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第27章 母と娘
唐突に話が方向転換して、にこりと美しい笑顔を繰り出しながら、リラの母は僕を見た。
悪いことをしているわけじゃないのに、思わず僕は背筋をピッと伸ばした。
「申し遅れました。僕はリラさんと…」
「わたしの彼氏!
お兄ちゃんから聞いてるでしょ?」
僕の代わりにリラが答え、お母さんは笑いながら言う。
「聞いてるわよ?
でもお兄ちゃんのあの不機嫌な感じから、よっぽど最低な人と付き合ってるのねと思ってたけど、いい人そうじゃないー!ね?安室さん」
「はは…ハイ…」
ああ、やっぱりリラの兄は、あの夜僕がリラを抱いていたの、気付いてたな…
リラは僕のものだと分からせたくて、ああした僕は、ある意味最低なのかもしれない。
少しだけ自己嫌悪に陥っていると、リラの母は優しい笑顔で言う。
「まあ、安心したわ。
こんな優しそうな人がそばにいてくれたら、親としては安心」
「…今まで、心配したことないくせに」
リラはフッと笑いながら、母を見た。
すると、母は突然真剣な顔をして本題に入る。
「リラ。
…今日私が日本に来たのは、あなたの実の母親の墓参りに行こうと思ったからよ。あなたを連れて。」
「…え?」
ぴくりとリラの眉が動き、みるみるうちにリラの顔がこわばっていく。
「あなた、お父様と弟くんのお墓は定期的に参っているのに、母親へは一度もお墓参りしたことないでしょ?
良い機会だと思って」
なるほど。
リラのこの2人目の母は、実母側の親戚か。
しかし実母を恨んでいるリラは、吐き捨てるように言った。
「…冗談やめて…
わたしは絶対行かない。
ありえない!だってあの人はわたしを殺そうとしたんだよ?!」
「…そうね。
だけど、ちゃんと向き合う必要はあるでしょ?」
「何を向き合うの?
父と弟は殺されたんだよ?
わたしは2人に誓った。
母の墓参りだけは絶対しないって。
絶対行かないから。1人で行って!」
取り乱したように声を荒げてそう言い捨て、リラはベッドルームに逃げ込むと、ぴしゃりと扉を閉めた。