【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第26章 謎に包まれた黒の話 ☆
帰宅しても、未だに脚が宙に浮いているみたいな感覚がする。
きっと、なにか理由があったんだ。
何度も何度も自分にそう言い聞かせては、昨日嗅いだ香水の匂いを思い出す。
わたしのじゃない、いい匂いだった。
この写真に写ってるブロンドの人がその香水の持ち主なの?
何度も信じようとしては、疑惑に変わる。
それを延々と頭の中で繰り返していると、夜ご飯の支度をすることなんてすっかり忘れていた。
外がもうすっかり暗くなった頃、家の玄関のドアが開いた。
零が帰ってきた…!
ハッとその音に気付いたわたしは、机の上に置いて眺めていた例の写真を咄嗟に自分の手帳に挟んで隠した。
「リラ?ただいま」
「お、おかえり」
出迎える笑顔が、引きつっている気がする。
わたしはやっぱり女優には向いていない。
無理に笑う演技すら下手くそなんだから。
零はいつものように微笑みながらわたしに近づいてきて、わたしの身体をぎゅっと抱きしめた。
「ただいま。
やっぱり、落ち着くな。リラの匂い」
そう言ってわたしの匂いを嗅ぐ零。
きっと他意はない。わかっているのに、わたしは思ってしまう。
あの高そうな香水の匂いと比べてそんな事言うの?
そんな思いが頭をよぎり、わたしは咄嗟に零の身体をぐっと押しのけた。
「?リラ…?」
「…零、わたしに話してないことあるでしょ?」
決死の思いでそう聞きながら零の目を見た。