【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第25章 わたしのじゃ無い良い匂い
38階のスイートルーム。
さすが、アメリカの人気女優。
リラの羽振りの良さにも驚くことはあるが、その比ではない。
部屋の鍵を開け、ベルモットの腰を支えながら部屋に入ると、そのまま彼女をベッドに寝かせた。
「ん…」
「水でも飲みますか」
そう言いながら冷蔵庫に向かおうとする僕の手を、ベルモットが掴んだ。
首を傾げながら振り返ると、ベルモットが不敵に笑いながら言う。
「ホテルの部屋で女をベッドに寝かせたくせに、何もしないで帰るつもり?」
「…泥酔した女性を無理やり襲うほど、悪い男じゃありませんよ」
そう言いながら掴まれた腕からベルモットの手をゆっくり剥がすと、僕は冷蔵庫にあったペットボトルの水をベルモットに手渡した。
「では。僕はこれで」
「つまらない男」
部屋を出ていくとき、そんなベルモットの捨て台詞が遠くの方で聞こえた気がした。
まあ、大抵の男はあんなふうに誘われたらするだろうな…
以前の僕なら、していたかもしれない。
ベルモットと関係を持つことで組織の中枢にのし上がれるのであれば、喜んでしただろう。
けれど今は、リラを傷つけることだけはしたくないと思う。
たとえ自分の身を滅ぼすことになっても、絶対にそれだけは。
リラはもう眠っているだろうか。
時計を見て、思った以上に帰りが遅くなることを思い出すと、そこから車で自宅に帰るまでずっとリラのことばかりを考えていた。