【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第25章 わたしのじゃ無い良い匂い
ベルモットとバーで飲むのは思えば久しぶりかもしれない。
一応顔の知れた人気女優のベルモットは、暗いバーの中でもサングラスをしたままだ。
ある意味、リラよりも顔バレに気を遣っている様子。
「私はマティーニを頂戴」
「僕はバーボンを」
「ふ…共食いみたいじゃない。」
「あなただって同じでしょう。
マティーニはジンとベルモットの…」
その先は言うのを咄嗟に止めた。
何となく、地雷を踏んでしまった気もしたから。
ベルモットはそんな僕の気遣いを鬱陶しそうに笑う。
「何よ。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
「いえ?何も?」
「…あなたにだって、いるでしょ?
好きな女の一人や二人」
一人や二人って…
僕が好きなのはただ一人だけ。
だけどそれをベルモットに知られてしまったら、弱点を一つ晒すことになる。
「いませんよ。」
「あら、そう。
ということは、毎日違う女を取っ替え引っ替え?」
「はは。バレましたか」
そう言ってとぼけるのは僕の得意技だ。
ベルモットはこれ以上のやり取りは無駄だと悟り、出されたマティーニに口をつけた。
「ま、本命の恋人なんて作っても何もいいことないわね。
人間の好きという感情は何より厄介だから。
時にはそれが、自分の人生を狂わせるんだから」
「そう…ですね」
愛想笑いをして、共食いと言われたバーボンを喉に流し込んだ。