【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第23章 The Little Mermaid ☆
報道では、母親は娘のことを溺愛していたからだとか
実は古賀大臣が妻にやらせたことで、娘だけは守ろうとしたとか
色んな噂が報道されたけど、そんな複雑な話じゃないの。
わたしがあの日、学校に持っていった水筒の中のお茶。
そこに毒物が混入されてた。
ちゃんと、わたしも殺そうとしてたの。母親は。
けれど、わたしはそのお茶を一滴も飲まなかった。
正確には、飲めなかったの。
…学校でいじめられていたから。
いじめっ子が、体育の授業の前にわたしのお茶を全部トイレに流したんだ。
だから、わたしは死ななくて済んだの。
まさか、いじめっ子たちに感謝する日が来るとは思ってなかったよ。
それ以来、周囲からわたしに向けられていた冷たい視線は、一変して同情の視線に変わった。
親に殺されかけた可哀想な子
一人だけ死にきれなかった子
実は1人生き残った娘がこの事件の黒幕?って言う人もいた。
そんな風に誰かがわたしを見るたび、苦しくて、辛くて、
心の支えは歌うことだけだった。
そして、母の妹にあたる雨宮の家に、養子として貰われることになったの。
お兄ちゃんと血が繋がっていないのは、そう言うこと。
母も、本当の母じゃ無い。
だからロンドンへは行かなかった。
わたしは一人で生きていこうと思っていたから。
負けたくなかった。
実の母親にも、わたしのことを同情の目で見てきた周囲の大人にも、不幸な生い立ちの自分にも。
ステージの上がわたしの唯一の居場所だった。