【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第23章 The Little Mermaid ☆
山岸さんに車で送ってもらい、家に着いた。
車から出る時、山岸さんがわたしに言う。
「しばらく、休もう。
一旦仕事のことは忘れて、ゆっくり。
…これからどうするか、社内で一度検討するから。
大丈夫。また歌えるようになる」
「…休まないとダメ?
歌の仕事じゃなくても、雑誌とか…バラエティとか…」
「駄目。医者にも言われただろ?
とりあえず1週間、スケジュール全部キャンセルするから、ゆっくり休んで。
1週間後、経過を見て今後のことを決めよう」
いつになく頼もしい口調でそう言って、山岸さんは車を走らせて帰っていった。
休む…?
そんなこと、今まで考えたことなかった。
15にデビューしてから8年間、歌しかなかった。
わたしには。
あの忌まわしい事実と、浴びせられる同情から逃げるには、歌うしかなかった。
歌ってる時は、嫌なこと全部忘れられた。
歌っている時だけ、自分が自分でいられる気がしてた。
歌ってる時だけ、誰かに必要とされた。
そんなわたしが、歌えなくなるなんて。
馬鹿みたい。
ありえない。
ねぇ神様。
わたしには歌しかないのに、その歌さえも奪うんだ…
本当の家族をたった1日で奪ったくせに、生きがいまで。
血を吐くような努力をして、やっとの思いで掴んだわたしの居場所は、脆く崩れた。
歌えないわたしに価値なんてない。
いつか、自分で言った言葉が反射して返ってきて、わたしの脳内を埋め尽くしてた。