【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第23章 The Little Mermaid ☆
「…心因性発声障害…」
「ええ。
声を使う仕事をしている方に非常に多い病気なんですよ」
目の前のお医者さんの言葉は、まるで機械的でわたしの心にまったく入ってこない。
どういうこと?
普通に話せてるのに、どうして歌だけ…
「話すことに対しての障害は見られないので、おそらく心理的に強いストレスが、無意識に歌うことを怖いと思ってしまっているのだと。」
歌うのが、怖い?
そんなわけない。
今まで、歌えなくなることなんてなかったよ?
診断結果に納得のいかないまま、わたしは先生に尋ねる。
「…いつ、なおりますか?
薬とかは…」
「何とも言えません。
明日起きたらコロッと治っているかもしれないし、治るまでに数年かかったケースもあります。
処方できる薬は、精神安定剤になりますね」
「ちょ…ちょっと待ってよ…
え?わたしが歌えなくなったということですか?」
「ええ。」
あまりにも淡々とそんな残酷なことを言われるから、よほど現実とは思えない。
そんなばかなことある…?
嘘だよ。歌えるよ、わたし…
そう思いながら歌おうとすると、声が少しも出なくなる。
「どうして…」
「…一度、休養なさってはいかがでしょう?
この病気は、ストレスから解放されることが、治療の近道なんですよ。」
そして、これからの治療法について淡々と説明する医者の声が、遠くの方で聞こえてた気がする。
休養?
歌声を失ったわたしに、一体何の価値があるの?