【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第3章 金髪のボディーガード
「…じゃあ、君の歌を聴かせてください」
「…え?そんなのでいいの?」
「そんなのって…プロでしょ?
プロの歌は、そんなの じゃありませんよ」
「でも…」
「今、僕だけに歌ってください。
何を買ってもらうよりもそれが嬉しいです」
「…じゃあ。1曲」
そう言って、リラがギターを鳴らし始めた。
曲は Stand by me
この曲を聴いて、元気をもらえた。
そう伝えたのを覚えていたんだろうか。
この歌声を聴いていると、あの日のことを思い出した。
あの日、彼女と最後のデートをした。
彼女と付き合ってからデートした場所を順番にめぐって、少しでも僕といた時間が、あいつの元に戻りたいと思う気持ちに抵抗できればと思って。
そんな駆け引きも虚しく、彼女は僕の元から去っていった。
いや、僕が迷子だった彼女を元のいるべき場所に帰してやった。と言うのが正しいか。
彼女が最後に涙を浮かべながら笑ったのを思い出す。
そして、もう2度と僕の本名を呼んでもらえないことも。
気づいたら、僕の目から涙が溢れていた。
「…安室さん…?」
何も言わず、涙を一筋流す僕を、不審に思っただろう。
ギターを鳴らす手を止めて、リラは僕を見た。
そりゃ、引くよな。
男がこんな…歌を聴いて泣いてるなんて。
勝手にそう思っていると、次の瞬間、リラの身体が僕を覆い尽くすように抱きしめた。
彼女と、違う香りに僕の目が眩んだ。