【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第13章 ZERO
「だから、ヒロがわたしのことをどう思っていたとか、知らないの。
今思えばただの気まぐれだったのかも」
無理矢理笑いながらそう言うと、降谷さんはわたしの方をじっと見ながらヒロの話をした。
「あいつは、気まぐれで女の子にキスするような男じゃないよ。」
降谷さんは、懐かしむように目を細めながら静かにそう言った。
「…やっぱり、ヒロのことよく知ってるんだね」
「…僕の幼馴染で、警察学校の同期だったんだ。」
「同期…だった?」
語尾が過去形なのに気づいたわたしは、降谷さんの表情を見つめた。
その表情で、次の言葉は何となく想像が出来た。
「殉職した。」
「…そう…なんだ」
つまり、ヒロはもうこの世にいないんだ…
もう何年も会っていないけれど、きっとどこかであの優しい笑顔で笑ってるんだろうと思ってた。
なのに、死んじゃったんだ…
あんなに優しい人が。
「あの日、ロンドンに僕もいたよ。
警察官として、ある組織を追うために。
ロンドンの諜報機関と情報共有をする機会があって」
「そう…」
「毎日夜にどこか出かけてるから、聞いたんだ。
何やってるんだ?って。
そしたら、お気に入りのシンガーを見つけたって。
てっきりどこかバーなんかで飲んでるものだと思ってたけど…
君に会ってたんだな。」
初めて誰かから、ヒロの話を聞くのが嬉しかった。
ヒロのことが好きだと言う話も、誰かにしたのは初めてだったから。
わたしも降谷さんと同じように懐かしむような顔して笑った。
「そんなこと言ってたの。
わたしシンガーじゃなかったのに、あの頃まだ」
「それが突然、出かけなくなったからどうした?と聞いたら、
大事な子だから巻き込みたくないって言ってたよ。
僕が当時から今も追っている組織は、世界的にも危険な犯罪組織だから」
「大事な子だと、思ってくれてたんだ…」
ヒロの気持ちを今まで聞くことはなかった。
もしかしたらわたしのこと、すっかり忘れてるんじゃないかとすら思っていたけど、ちゃんと想ってくれていたんだ。
そう思うと、じわ…と涙が浮かんだ。