【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第12章 諸伏景光の隣には
これまで、何曲か作って事務所に交渉したりしたけど、全部ボツ。
そりゃあわたしだって、アイドルは楽しいよ?
他のメンバーと切磋琢磨しながら高みを目指せるし、歌って踊るのは嫌いじゃない。
だけど、ソロでやって行きたいっていうのは、きっと誰もが思ってるよ。
この業界、そう言う野心に溢れた人間ばかりが集まるんだから。
わたしは一体、何者なんだろうね。
ハイドパークの池のほとりのベンチに腰掛け、ギターを鳴らした。
そして、イギリスにいるというのに、日本語の歌を静かに、ゆっくりと口ずさんだ。
「〜♪」
初めて自分で作った曲
最初のワンフレーズを歌い終わり、わたしの吐息が白く夜空に浮かんだ時、
後ろから拍手が聞こえてきた。
パチパチ…
「だれ?」
はっと後ろを振り返ると、日本人らしきの男の人がこちらを見ながら拍手をしていた。
わたしのこと、知ってるのかな…
一応日本では今大人気のアイドルグループのセンターだし…
どんな顔していいかわからず、わたしはじっとその人を見た。
「いい歌だね」
「…ありがとうございます。
…でも、ダメなんですこの曲じゃ」
この曲は、初めて自分で作詞作曲したわたしの一番思い入れのある曲だった。
なのに、プロデューサーからもらったのはボツの一言。
自分じゃ、いい曲かどうかもわからなかった。
その男性はゆっくりと近づいて来て、わたしの隣に腰を下ろした。