【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第9章 I fancy you
楽屋でいつものようにメイクさんにヘアメイクをしてもらう。
だけど、わたしの顔は全然綺麗じゃない。
生気がなく、口角も下がり、とてもアイドル出身の芸能人には見えない。
「…どうしたの?Lila」
「え…」
「化粧ノリが悪いし、何より表情がどんよりしてる。」
そう言われたから、鏡を見ながら無理に笑ってみた。
必死に口角を上げてるのに、笑えない。
「…わたし」
「Lilaは、いい曲作るのに、自分の気持ちを言葉にするのは苦手よね。
…ちゃんと言葉にしないと、相手には伝わらないわよ?」
一通りメイクを終え、浮かない顔をしてるわたしの肩にメイクさんがぽん…と手を置いた。
自分の気持ちを…言葉にする…
リハーサル中、ずっと上の空でメイクさんに言われた言葉が頭の中でリピートされていた。
「Lila、体調でも悪いのか?」
山岸さんが様子のおかしいわたしを心配そうに見た。
「いえ。大丈夫です」
「そ、そうか。良かった。
やっとストーカーも捕まったし、これからは伸び伸びと歌えるな」
伸び伸びと…歌える…
歌える?
わたし、今のままじゃ歌えない。
今まで恋をして、失恋して、たくさんの曲を書いてきた。
歌えなくなることなんて無かった。
失恋なんて、曲のネタになる。
そんなことすら思ってたの。
だけど今回は、この状況で幸せいっぱいの曲なんて歌えない。
安室さんとの失恋の歌なんて、歌いたく無い。
思えばわたしは自分の気持ちは何一つ伝えていない。
安室さんには好きな人がいるから
わたしなんて、ふさわしくないから
そんな言い訳ばかりして、
好きも、一緒にいたいすらも、言えてない。
リハが終わり、本番を迎えた。
生放送の音楽特番。
このままじゃ歌えない。
歌うには、このモヤモヤを晴らさないとダメだ。
「じゃあLila、この曲のポイントについて聞かせて」
司会にそう聞かれ、わたしはカメラの方をじっと見ながら口を開いた。