第19章 羽折れの天使
「私それにする!」
『刺繍があまりにもお粗末すぎない?』
「そんなことない!それにする!」
『.....そう。早く決まって良かったね。侍女長。後は頼みます。』
「はい。」
侍女長に杏花とドレスを預け、東堂に案内されながら父の待つ部屋へと向かった。
『てかあの人が呼び付けるって一体何の話だろう。』
「例の事かと.....」
『あーね。なるほど。』
コンコン.....
「入りなさい。」
『失礼します。お久しぶりです。お父様。長らくの出張ご苦労さまでした。』
「.....」
『あの.....』
「建前は結構だ。私が留守の間、随分と好き勝手やっていたようだな。」
『何のことでしょうか?』
「東堂め。甘やかしおって。一執事が図に乗りおって後で仕置が必要だな─────『お待ちくださいお父様!東堂は何も悪くありません!仕置きならオレが受けます!だから東堂には手を出さないでください。』
「......聞いたぞ。あの下賎な者たちに女だとバレたらしいな。しかも佐野万次郎と付き合うだけには飽き足らず、特攻服とやらを女の格好にしているらしいな?」
『.....(またお目付け役にでも探らせたか。私の見立てが甘かったな。)』
「貴様!何を考えている!あれほど気をつけろと言っただろ!!貴様の失態で蒼葉グループまでも危険に晒す気か!我らは何時いかなる時でも世間の目があるのだぞ!」
ゴスッ!!激情に駆られた父はそう叫びながらリツカを殴りつけ、手に取った鞭で膝を思いっきりひっぱたいた。
するとリツカはあまりの激痛に膝を着き蹲った。
『(痛っ〜)も、申し訳ありません.....』
「いいか!オマエは男なんだ!世間でのオマエは"蒼葉グループの跡取り息子"。私の"息子"なんだ!何故いつまで経ってもそれを理解しようとしない!」
忌々しそうに父はそう言うとまだセットされていないリツカの髪の毛を掴みあげた。