第1章 ※笑顔の裏側
「…っ」
杏「『選ぼうとしてくれているのか』と問うたな。まるでそうであれば喜ばしいかのような口振りだ。」
その言葉を聞くと清宮の頬はパッと赤く染まる。
その反応と相変わらず大事そうに抱えている自身の隊服を見て、杏寿郎は胸が期待と共に高鳴るのを感じた。
杏「その男に想いを寄せるようになったのは何時だ。鬼殺隊に入ってからか。入る前か。……では、五つの頃か。」
最後の問いに清宮が肩を揺らして耳まで赤くなると想いが通じ合っていたのだと察した杏寿郎は清宮を力強く抱き締めた。
「きょ、杏寿郎さん…っ」
杏「そうか!!君は父上に助けられた時 俺に会っていたのだな!!!」
そう言うと杏寿郎はガバッと体を離し、ハッとして恥ずかしそうに視線を逸らす清宮に幼い頃向けたのと同様の眩い笑顔を向ける。
杏「俺も君が好きだ!!見合いの日、手を引いている時に見せてくれた表情に俺はすっかり虜にされてしまったんだ!!!」
「…………………………え……?」
杏「うむ!呆けた顔も愛いな!!」
清宮はこれから離縁になるかもしれないと思っていた矢先に杏寿郎にそのような想いを告げられると 嬉しさと安堵、そして気恥ずかしさから一杯一杯になってしまった。
「私……、杏寿郎さんが恋心を知ったと噂で聞いて…それでてっきり失恋をしたのだと…。」
杏「妻がいるのに他の女性にそのような感情を抱く筈がないだろう。」
「………………。」
複雑そうな表情で黙り込んだ清宮を見て杏寿郎は明夫に言われた『あなたが彼女に望んだのは子供のみだ』という言葉を思い出し、慌てて清宮の肩を掴む。