第1章 ※笑顔の裏側
『大丈夫だ!!もうそんなに泣かなくていい!!!』
子供が起きているには遅すぎる時間、突然の来訪者にその少年は眩い笑顔を向けた。
『おいで。すぐに "かくし" の方々が君のご両親をつきとめてくれる。』
先程とは打って変わって優しい声色を出すと少年はぽろぽろと涙を溢す少女を抱き寄せ、自身の幼い弟をあやす様に背中をぽんぽんと少し強めに叩く。
そのまだ慣れていない手付きさえ心地良く、その少女は不思議なほど容易く安堵する。
そして泣き疲れたことから少年の腕の中で眠ってしまったのだった。
―――
「お父様…そ、それは本当ですか……?」
まだ女性と呼ぶには若いその少女は両手の指を絡ませて握り、そう震える声を出した。
男「ああ。見合い話を受けてくれると確かに返事を貰った。良かったな、清宮。」
そう言って柔らかく微笑むのは清宮と呼ばれる十六歳の少女の父親、彩 宗則だ。
母親は涙を滲ませて喜ぶ愛娘の隣に寄って優しく頬に手を当てる。
女「清宮は幼い頃から杏寿郎さんが大好きでしたものねえ。」
「お、お母様……。」
清宮は僅かに頬を染めたが母親、ちえの言葉を否定せずにされるがまま頬を撫でさせた。
清宮が噂の渦中にある杏寿郎と接点を持ったのは十一年前、清宮が五歳で杏寿郎が八歳だった頃だ。
(杏寿郎さんは覚えていらっしゃるかしら。)
五歳だった清宮は珍しい血故に鬼に攫われたことがある。
そしてそれを煉獄 槇寿郎という鬼狩りに助けて貰い、その男の家が近かったという理由で清宮の親が見つかるまでの少しの間 煉獄家に上がらせて貰ったことがあるのだ。
その時の事を事細かに覚えており、尚且つその時出会った杏寿郎に想いを寄せていた清宮は心底嬉しそうに目を細めた。