夢に見た世界【アイドリッシュセブン】【D.Gray-man】
第6章 恋人同士とは番外編3
そして、二月になった。
カエデはあれから、ヤケになったように男遊びを再開させた。
いつものように適当な年上の男に声をかけ、一夜だけの戯れをし、何事も無かったかのように去る。
いつもと違うのは、以前のような楽しさが欠片も無くなり、ただただ自身への嫌悪感と罪悪感、そして身体の気持ち悪さが増していく一方だという事。
こんな事、早く止めなければと思うけれど。
なぜか今日も、適当な男を探して街を歩いている。
無性に虚しい。
だが、逃げ道を確保しておかなければ、おかしくなってしまいそうで。
いや、もう既におかしくなってしまっているのかもしれない。
カエデはぼんやりと、何も考えずに街を歩いていた。
ぽつり、ぽつり、とそんな時に雨が降る。
それは次第に強まる。
仕方なく、すぐそこにある喫茶店の中へ逃げ込んで来た。
そこは、壮五との思い出の場所。
できれば近寄りたくなどなかったが、外は土砂降りの雨である。
しばらくは動けそうに無いなと思いながら、空いている席へと移動した。
テーブル席に座ると、カエデは物思いに耽る。
好きでもない男と一夜を共にする事が、こんなにも気持ちの悪い物だとは、知らなかった。
以前は感じていた快楽も、もう得られそうに無い。
店員さんがやって来たので、コーヒーを頼んだ。
砂糖はたっぷり、ミルクは多めで。
店員さんは、素早くコーヒーを持ってきてくれた。
まずは一口すする。
丁度良い味だ。
熱いコーヒーが、雨に濡れた体を温めてくれた。
ほっとする。
何となく、このまま雨が上がらなくても良いような気分になっていると、突然。
「香住さん」
控えめで、優しくて、温かくて。
聞きたくない声。
どうしてこんな所に?
話しかけられたからには無視するわけにもいかない。
疑問はひとまず横に置いておいて、コーヒーをテーブルに戻し口を開く。
「壮五・・・」
恐らく変装用の伊達メガネを外し、マスクをずらしながら。
「良かった、やっと会えた」
今にも泣き出しそうな顔で、壮五はそう言う。
泣きたいのはカエデの方だ。
どうして話しかけてきたの。
どうして優しくしてくるの。
どうして、どうして、どうして。
どうして、壮五は壮五なの。
「ここに居れば、いつかは会えると思ってたよ」