夢に見た世界【アイドリッシュセブン】【D.Gray-man】
第4章 恋人同士とは番外編
「恋人同士とは」番外編
百八回目の鐘の音を聞き終えたカエデは、携帯を片手に夜道を歩いていた。
ハッピーニューイヤー!
その言葉を、深夜十二時丁度にラビチャで送る。
今頃、壮五は何をしてるだろう。
仲間と共に新年を祝っているのだろうか。
楽しく過ごせてたら良いな。
そんなささやかな願いを星空を見上げながら、カエデは思う。
彼女は、一人で神社へ向かっていた。
厚手のコートにマフラー、耳あてと手袋をしているけれど。
さすがは一月一日。
肌を刺すような寒さに、強い風が吹いて、思わず身体を縮こまらせる。
指先をこすり合わせて、はあ、と息を吹きかけた時、カエデの携帯に通知が来た。
壮五からだ。
「明けましておめでとう。今どこに居るの? 家かな?」
唐突な問いかけに、カエデは首をかしげる。
(自分がどこに居ようと、壮五にはそれほど関係が無いと思うのだけど)
まあ、特に嫌な気もしないので、正直に答えようと思っていたら、今度は通話がかかってきた。
何だ何だと思いカエデが画面を覗くと、そこにあるのは壮五の名前。
どうしたんだ今日は。
いつもなら、メッセージだけでやり取りするか、忙しくて既読すら付かないかのどちらかなのに。
更に首を傾げつつも、カエデはとりあえず電話に出る。
「はい、香住です。もしもし壮五? どうしたの」
「ごめんね香住さん。急に電話しちゃって」
電話に出た壮五の声は、いつもより慌てているような様子。
遠くから、早く早く! と、誰かが囃し立てる声が、カエデに聞こえる。
その賑やかさは想像以上で、ついこんな言葉が出た。
「楽しんでるみたいね、良かった。ちょっと声が聞き取りにくいけど」
「ごめんね、少し騒がしくて。今外に出るから」
「いや、すっごい寒いからそのままで良いよ。それで、急に電話なんかして、どうしたの?」
カエデが率直に問いかけると、壮五は答えにくそうに何かを言う。
壮五の声は小さくて、電話越しの喧騒に掻き消され、何を言っているのかまるで分からない。
それでもカエデは、気長に壮五の言葉を待つのだった。