夢に見た世界【アイドリッシュセブン】【D.Gray-man】
第3章 爪先ほどの想い(i7)未完
六弥さんが、テレビ局に来る。
それを知っただけでも胸が高鳴る。
でも私は、分かっているつもりだ。
六弥さんは仕事の為にテレビ局へ訪れる。
私に会いに来てくれる訳では、ない。
だから化粧なんて、ほとんど意味を成さないに違いないのだ。
私は、きっと、心のどこかで期待している。
六弥さんが私と目を合わせてくれる事を。
六弥さんが私に手話で語りかけてくれる事を。
でもそれは、本当は望んではいけない。
私は、分かっている。
分かっているのに、期待してしまうのだ。
どうしようもない。
これが、恋、という物なのかと実感する。
叶わない恋。
それでも良い。
ただ一目見られるだけで、それだけでいい。
私は、相手にすらされないのだから。
出会えただけで奇跡、そう思えば良いのだ。
そう思えたら、いいのに・・・・・・。
私は、どうしたいのだろうか。
諦めたいのだろうか。
「諦める」
その言葉が頭に浮かんで、つ、と涙が出てきてしまった。
嫌だな、泣きたくなんてないのに。
ああ、私は、諦めるべきなのに。
諦めたく無いのだろう。
職場に着いた。
あれから私は、無理やり泣き止ませて、職場の化粧室で直した。
出勤するなり、私の顔を見た同僚から、声をかけられた。
「ちょっとカエデ、大丈夫?」
大丈夫ではない。
全然、全く、大丈夫なんかじゃないけれど。
こんな事で同僚を心配させるのも何だか気が引けて、私は笑顔を作り、頷きながら、左胸と右胸に指先を当てた。
それから少し仕事をして、六弥さんが来る時間になる前に休憩をもらい、今に至る。
胸が騒いでいた。
ドクドクと、熱い血が体中を駆け巡っているのが分かる。
緊張に、不安に、隠しきれない期待に、六弥さんへの想いに。
私は、押し潰されそうになりながら、鏡に映る自分を見た。
瞳は煌めいていて、頬が少し赤い。
恋する乙女達の顔って、こんな顔をしてるんだなと思う。
六弥さんに会いに行く。
そう考えるだけで、心はこんなにも複雑に動く。
六弥さんに嫌われたくない。
だから。
私は、笑顔を作った。
にっこりと笑顔を作るのは、得意なはずなのに、これだけでも緊張してしまう。
今日六弥さんに会ったら、私は平常心で居られるのだろうか。
両頬をぱちんと叩き、私は化粧室から出た。