夢に見た世界【アイドリッシュセブン】【D.Gray-man】
第3章 爪先ほどの想い(i7)未完
朝起きたら、顔を洗い、歯を磨き、手鏡を覗く。
そこに映っているのは、可愛げの無い自分の嫌いな顔。
それを少しでもマシにしたくて、化粧をする。
でも、化粧で化けた自分の顔も、好きじゃない。
冴えない顔付きは、私の中でも大きなコンプレックスだった。
だから、今まで異性とお付き合いできた事なんて無い。
童話の人魚姫も、私と同じで声が出せない女性だった。
人魚姫は美人だったのに、恋した王子と結ばれず、海の泡となって消えてしまった。
人魚姫でさえ、報われなかったのだ。
ましてや、こんな取り柄のない私の恋が、報われるはずも無い。
私にとって恋とは、ずっと縁遠い物だった。
声が出せないせいで友達もほとんどできなかったし、恋愛は障害者にとって難しい夢物語だ。
勿論、同じ境遇の仲間とは、普通に話す事ができる。
手話だって通じるし、私と同じように声帯を持たない人とも出会って、仲良くなれた。
でもそれは、恋には発展しなかった。
素敵だな、と思った人はいる。
尊敬できるな、と思った人もいる。
それでも、やはり恋とは違うのだ。
私は、沢山の恋愛小説を読んできた。
報われた恋も、報われなかった恋も、全部読んだ。
だから分かった。
六弥さんと初めて会ったあの瞬間に。
これが「恋」なんだって。
そして、絶望した。
これは「報われない」恋なんだって。
住む世界の違う者同士の恋物語なんて、いくらでもあった。
だけど、その物語の主人公は、みんなどこか素晴らしく魅力的なところが、一つ以上あった。
対して、私はどうだろう。
化粧しても魅力的にならない顔、凹凸の少ない体型、そして声帯が無い。
こんなの、神様から「お前は一生恋愛事とは縁が無いのだ」と言われているような物ではないか。
わかっていた。
そんな事、最初から。
――だから、恋なんて、落ちたくは無かった。
そう思うと、鼻の奥がツンとする。
泣いては駄目だ。
せっかくの化粧が落ちてしまう。
化粧の落ちたみすぼらしい顔で、六弥さんに会いたくない。
そう考えた自分に、嘲笑が溢れる。
六弥さんが私を意識してくれる事なんて、生涯あるはずの無い事に決まっているのに。