夢に見た世界【アイドリッシュセブン】【D.Gray-man】
第3章 爪先ほどの想い(i7)未完
「Oh,Sorry.」
と、謝られてしまう。
不注意で私がまた書類を落としてしまったのは、幸か不幸かアイドリッシュセブンの六弥さんの目の前だった。
何もないところで躓くのは私の悪い癖で、テレビ局で働き始めてからずっと、この癖は直らない。
気をつけて歩いているつもりでも、気がつくとふらふらと体が崩れそうになる。
私は駄目な局員だと自分を卑下しながら、落ちた書類をかき集めていた。
その時、指先が僅かに六弥さんに触れてしまって。
びっくりして伸ばしていた手を引っ込め、顔に熱が集中してしまう。
六弥さんにとっては、何でもない事なのだろうけれど。
意識してしまっている私にとっては、耐え難いハプニング。
「大丈夫ですか? 少し運ぶのをお手伝いしましょうか?」
六弥さんの申し出は、すごく嬉しい。
隣に並んで歩ける事なんて、こんな時くらいしか無い。
でも、やっぱり恥ずかしいし。
局員がタレントに頻繁に世話になるのは、あまり良い事じゃない。
だから私は、唇を噛んで首を横に振り、頭を深々と下げる。
急いで書類を拾い上げて、すたすたと早足でその場を去る事にした。
六弥さんは、とっても格好良くて、スマートで、優しい人だ。
何度も目の前で転けているのに、いつも私の事を心配してくれる。
だけど、その好意に甘えてはいけない。
彼はアイドルで、私はテレビスタッフ。
住む世界が違うのだ。
言葉を交わすなんて以ての外。
まあ、私には話すための声が無いのだけれど。
子供の頃から、私には声帯が無かった。
だから人と話す時は手話を使う。
でも、普通の人には手話なんて通じない。
そのはずなのに、六弥さんだけは違った。
最初に六弥さんの前で躓いた時、私は手話でごめんなさいと言った。
それが通じるとは思っていなかったけれど、無言で何もせず去っていくのは、違う気がしていたから。
六弥さんは私の手話を見て、手話で返事をくれた。
「大丈夫。あなたは?」
私はびっくりした。
そして、同時に好きになっていた。
これは叶わぬ恋だと分かっている。
だから、六弥さんとはあまり顔を合わさないようにやり過ごしていた。
でも、この心臓が私の思い通りにならない。
ただ指先が触れただけなのに、鼓動が、うるさい。