第15章 Merry X'mas
『…この音…』
「ん?なんか聞こえる?伊織」
『うん』
「あ?…場地なんか聞こえるか?」
「いや…ドラケンの排気音でなんも聞こえねー」
万次郎は軽く首を後ろに向けて振り返り私の呟きにそう反応し、音を拾うように宙を見つめる
隣を走る圭くんとけんちゃんも少し耳を覚ましてみたのか、一時の沈黙ののちに聞こえないと、そう声を上げた
いや、、、確かに聞こえる
各所から聞こえるクリスマスソングと街行く人の声の奥に、この日らしくないわたしたち以外の排気音
万次郎のバブでもない、けんちゃんのゼファーでもない
2人のよりも幾分か繊細なタッチの音…
「あ、俺聞こえた!バイクの音!!
だろ!?伊織!」
『そう!!万次郎正解〜!』
「はぁ?このクソさみぃ中走ってるバカ俺らだけだろ!?」
「伊織とマイキーの気のせいじゃね?」
『ふっ…圭くん、私が元何部だったのか、忘れてもらっちゃ困るなぁ〜』
「あ?」
『耳には自信あるの。
元吹部の聴力、こういう時こそ光るのよ。』
まぁ、元、とは言っても少しの間だったからあんまり関係ないかもだけど…
『ねぇ、ちょっと戻ろうよ。
たかちゃんが私たちの誘い断ってまで行く場所、興味ない?』
「たかちゃんって…三ツ谷の音か?」
『ええ。
あの丁寧なコールはたかちゃんのインパルスくらいしかないわ。』
「本当かよ…」
「伊織が言うなら間違いねぇだろ!!
行くぞ!お前ら!!」
『ん?万次郎、方向わかるの?』
「おう!
ケンチン!次の信号右な!!」
「ったく…違ったらチョコパ奢りな〜」
「じゃあ俺ペヤング!」
『いいわよ?
じゃあその代わり合ってたら私と万次郎の分の鯛焼き奢りね?』
「どら焼きもな!!」
「おーおーいいぜ。」
そんなことを言い合いながら、万次郎とけんちゃんはウインカーをあげて車線変更をする
万次郎すごい…
私は元々行き先がわかってるけど、万次郎はそうじゃない
でも彼の向かう方向は迷いなくあの教会のある場所だ
不思議な感覚に疑問を持ちながらも、私は万次郎の腰に回す手に力を込める
もし仮に…この音がたかちゃんのものでなかったとしても、彼はきっとあそこにいる
…待っててね、すぐに着くから