第10章 Betrayal
『…お待たせ…って、、あれ?千冬くんとタケミっちは?』
「先に帰したよ」
『えっ!もしかして私そんな遅かった?』
「いや、なことねーよ。
俺らが帰れって言っただけだから。」
「うん。ちょっと3人で話したくてさ。
…兄貴とゆっくり話せた?」
『っ…うん。』
「そっか」
ザー…
傘に雨が打つ音がうるさい
…と、万次郎が口を開く
「…伊織、ケンチン、俺今なんか怖いんだ」
『え…?』
「…このまま進んだら、何か取り返しがつかなくなるようなことになるんじゃないか…そんな気がしてたまらない。
何がとかわかんねえけど…自分が、そして俺の大切なもんが、消えて無くなりそうな気がして怖い。」
「…」
『…』
「兄貴が死んだとき、俺、1番最初に思ったんだ。
嗚呼、兄貴は俺のせいで死んだんだ、って…」
『っ』
真兄のお葬式の日
真兄を慕っていた不良達が泣き、エマやけんちゃん達が泣く中に万次郎は居なかった
…万次郎はみんなが居なくなった後、1人で真兄の棺桶の裏で泣いてた
…偶々通りかかった私に気づくと、私が声を上げるよりも先に私の手を引っ張って影に2人で隠れた
万次郎の涙は彼がいくら拭いても止まらなくて、私の渇いたハンカチがぐしゃぐしゃになるまでずっとそこに居た
そして繰り返して万次郎は私の手を握ったまま、絞り出すように言うんだ
「ごめん、俺のせいだ」
「俺のせいで兄貴は死んだ」
「俺が兄貴を殺したんだ」
「ごめん、本当にごめん」
何度も何度もそう言って泣いていた
誰よりも苦しい筈なのに、誰よりも悲しい筈なのに、自分でさらに自分を苦しめ続けていた
…そんな彼を前にしても、私の目は渇いたままだった
万次郎が泣けば泣くほど、私の涙は引っ込んでいった
私はあの日、泣けなかった
…どうしても泣けなかった
ー伊織、万次郎を頼むな
ー万次郎のこと守ってくれよ
ーお前達は俺が守ってやるからな
ーお前達のこと、大好きだ
そんな声が後ろの棺桶から聞こえてきた気がして、私はじっとその心地よい声と万次郎の嗚咽を聞きながら背中を預けていた