第9章 ハロウィーン
ミラとハーマイオニーはトイレの入り口からヌーッと姿を現した巨大な怪物に声を詰まらせた。背の高さは十二フィートも有り、肌の色は墓石のような鈍い灰色で、そのずんぐりとした巨体は岩石のようにゴツゴツしていて、ハゲた頭は小さく、ココナッツがちょこんと乗っかっているかのような姿だった。
短い脚は、木の幹ほども太くて、地面に触れる足の部分はコブだらけで平たくなっており、何より二人の顔を歪ませたのは、この怪物から匂ってくるもの凄い悪臭だった。
腕が異常に長いので、手にしている巨大な棍棒は床を引きずっていた。
「---何、このデカブツ」
「と、トロールよ!」
後ろにいるハーマイオニーの声は引き攣り、ミラのローブを力一杯握りしめていた。ミラも今まで感じたことのない冷や汗が全身から噴き出るのを感じた。
トロールはこちらの存在に気が付くと、更にこちらに歩み寄ってきた。二人も後ろへ下がり、ミラはこの危機にどうすべきかと考えを巡らせていた。
「ハーマイオニー…合図をしたら、アイツの横を走り抜けるんだ。わたしが気を引いておく」
「だめよ!二人で逃げましょ!」
「行くんだ!!」
手にしていた杖をトロールに向けて振ると、バチバチと火花がトロールの顔に直撃した。片方の手で顔を押さえたトロールは、もう片方の手に持っていた巨大な棍棒を二人めがけて振り下ろそうとしていた。
ミラは後ろにいたハーマイオニの腕を掴むと、棍棒を振り上げている左手側のトロールの空いているところへ突き飛ばした。ハーマイオニーは悲鳴をあげてトロールの横を走り抜けていくと、ミラも振り下ろされた棍棒を避けるために真横に飛び退いた。
自分の横をすり抜けたハーマイオニーの悲鳴を聞いたトロールが後ろを振り返ろうとすると、ミラはまた火花をトロールめがけて魔法を放った。
「こっちだ、ウスノロ!」
なんとか気を引かなければと、ミラは今わかる魔法をありったけトロールのココナッツみたいな頭にぶつけた。